2022年9月2日金曜日

スポーツ選手と寿命

「スポーツすると早死する」説は本当か徹底検証してみた
スポーツ 投稿日:2016.09.08 12:00FLASH編集部

 8月7日、第58代横綱・千代の富士、九重親方の告別式が営まれた。昨年6月に膵臓ガンの手術を受けたものの、今年に入って再発。7月31日に61歳で急逝したのだ。
 そんな千代の富士にとって最大の目標だった第55代横綱・北の湖も、2015年11月に62歳で亡くなったばかり。日本人男性の平均寿命が80.79歳(2015年)であることを考えると、両横綱の死はあまりに早い。

 力士たちの診察や健康管理をおこなってきた林医師は、「体、内臓が丈夫な力士が出世していった」と言う。
「それほど優秀な幕内力士が短命なのは、過激な運動のしすぎとしか考えられない。過激な運動は、DNAに悪影響を与える活性酸素を過剰に発生させるし、免疫力も落ちていく。そのため、ガンになりやすい、治りにくい肉体になってしまっている。残念ながら、稽古熱心な力士ほど、顕著です」(林医師)

●平均寿命が高い競技は引退してもできる生涯型

 大妻女子大学副学長の大澤清二教授は、実際にアスリートと寿命の相関関係を明らかにした。表は1939年までに生まれたアスリート1920人の寿命を追跡調査した表だ。力士の平均寿命は56.69歳でワースト1位になっている。
 なお、この調査は1998年に発表されたもの。その後日本人の平均寿命は伸びているから、表の数値も多少は上昇していると考えられる。

「このときアマチュアの力士も調査しましたが、こちらは73.61歳と一般人と大差なかった。プロとアマではストレスがまったく違うためです。ストレスは、ガンなど多くの病気の危険因子です。また、競技レベルが上がるほどに怪我も増える。怪我がストレスになるという悪循環です」(大澤教授)

 ただ、ストレスやプレッシャーは、ほかの競技もあるだろう。中長距離の陸上が80.25歳、剣道が77.07歳と高い数値を出しているのはなぜなのか。

「平均寿命が高い競技は、いずれも生涯型で、引退後も自分のペースで続けられるものが多い。一方、相撲は筋肉や脂肪で人工的に体をつくりあげる競技ですし、レスリングやボクシングは厳しい体重制限、食生活のなか何カ月もトレーニングをおこなう。引退後、現役時代と同じように競技を続けることが難しい種目なのです。瞬発力系のスポーツである水泳や陸上短距離も、選手寿命が短く、引退後は運動不足になってしまいがちです」(同)

●ゾウもネズミも人間も15億回心臓打てば寿命

 東京慈恵会医科大学相撲部の総監督を務める医師・富家孝氏はこのような見方を示す。
「千代の富士の場合はたしかに早世でした。しかし、60歳になったら、ガンは誰もが罹る可能性がある。貴ノ浪の急性心不全だって、リスクは一般人と変わらない。急死の8割は、心臓が原因ですから。アスリートが必ずしも短命とはいえません」

 では、生物学的にみればどうか。生物学者で東京工業大学の本川達雄名誉教授に聞いた。

「息を一回吸って吐くあいだに、心臓は4回打ちます。哺乳類なら、どの動物でも、一生のあいだに心臓は約15億~20億回打つ。ゾウの寿命は70年、ネズミの寿命は2、3年ですが、その回数は変わらない。その回数をヒトに当てはめると、せいぜい40年で15億回に達してしまう。

 ですが、いまは野生では暮らしていませんし、医療も発達している。そのおかげで、生き長らえているんです。激しい運動をすれば、そのぶん、心臓の限界に早く達することもあるでしょう」

●心拍数が70回以上なら心臓病の死亡率は2倍

 東北大学の研究では、心拍数が1分間に70回以上の人は、70
回未満の人に比べて、心臓病が原因の死亡率が2倍になったという。

 そのため、「スポーツをすると無駄に心臓を消耗するため、長生きできない」という考えも根強い。しかし、前出の大澤教授はこう説明する。

「アスリートは一般の人よりも心拍数が少ない『スポーツ心臓』を持っているんです。成人の平均的な心拍数が60~70回なのに対して、アスリートは40~50回。一流マラソン選手では、30回程度です。

 極端に心拍数が少なければ短命になったり、不整脈なら突然死のリスクもありますが、激しい運動に適応して心臓が大きくなっており、一度に送れる血液量が増大して疲れにくくなっているのです」

 そんな人並み外れた身体能力をもちながら、早世してしまうアスリートがいる。なんと凄絶な勝負の世界か。

(週刊FLASH 2016年8月30日号)

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