「紙も電子も」成り立つか
2010年が「電子書籍元年」と呼ばれるきっかけとなったアップルの多機能端末「iPad」の日本発売から、もうすぐ1年。電子書籍を配信する「電子書店」が数多く登場したが、過渡期で乱立気味だとも言える。
自分の読みたい本をどこで買えば良いのか、分かりにくいと感じている人が多いのではないか。
新潮社は先月末、「新潮ライブ!」(http://www.shincho-live.jp)というサイトを開設した。「購入ナビゲーションサイト」というだけあって、自社の電子書籍約580点がどの書店で購入でき、どの端末で読めるかが一目瞭然。お目当ての本を買える書店に真っすぐ案内してもらえる。同社の書籍に限っては、書店間の縦割りが解消されたと言っていい。柴田静也・開発部長は「自社作品の何が電子化され、どこで読めるのかを指し示すのが出版社の使命と考えた」と話す。
同社はまた、作者の許諾を得られなかったものを除き、新刊書籍すべてを電子化していくと発表。電子化の時期は紙の本の発売から半年後、価格は紙の本の8割を基本にするという。
米国では今や新刊の多くが紙と電子で同時出版され、それが電子書籍の普及を促したと言われるが、新潮社はあえて時間差を設けた。日本ではまだ紙と電子の売れ行きの差が大きいことに加え、同社には新潮文庫という大きな柱がある。単行本の約3年後に発売される文庫の売り上げに極力影響を与えない「単行本→電子本→文庫本」というすみ分けが可能なのか。同社の示した方針はその意味でも、出版界で注目されている。
「電子化の時期や価格はとりあえずのもの。どういうビジネスモデルが考えられるか、市場や読者の動向を見ながら試行錯誤していきたい」と柴田部長。「紙か電子か」ではなく、「紙も電子も」は成り立つのか。当面は、さまざまな試みが続きそうだ。(多葉田聡)
(2011年5月13日 読売新聞)
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