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2022年7月18日月曜日

大阪万博

大阪万博開幕まで1000日 夢の新技術が描く未来予想図
2025年 万博
2022年7月18日 5:00 [有料会員限定]

2025年に開幕する国際博覧会(大阪・関西万博)まで18日であと1000日となった。大阪・関西万博の目玉の一つが、企業や大学が披露する新技術だ。二酸化炭素(CO2)からエネルギーを生み出す住宅や、まるで人間のように動くロボット、そして空中を浮遊するクルマ――。大阪・ミナミの買い物客からは「未来を体感できる万博に」と期待の声が寄せられた。

空飛ぶクルマ、会場へひとっ飛び
大阪・関西万博における目玉の一つが空飛ぶクルマだ。来場者の移動手段となる可能性があり、国内メーカーではスタートアップのスカイドライブ(愛知県豊田市)とテトラ・アビエーション(東京・文京)が実用化をにらみながらしのぎを削る。

関係者の話を総合すると会場への飛行距離は大阪市内からの場合、10キロメートル程度が想定される。一般道の自動車並みの速度で、飛行時間は10分前後となりそうだ。2~4人乗りの機体開発が国内外で進み、タクシー運転手のように専門の操縦者が搭乗する方向で検討されている。

実際の運用方法は未確定の部分が多く、今後も国などで議論が進められる。

「これが空飛ぶクルマのスタートだと強烈に印象付けられる」。スカイドライブの福澤知浩最高経営責任者(CEO)は話す。海外勢に負けじと25年に向けて2人乗りの機体を開発中だ。

テトラ社も2人乗りで前後に合計32個のプロペラが付いた機体を想定。2つのスティックで機体の傾きや高度を変えられ、「テレビゲームをする子どもでも操縦できるくらいの容易さだ」(中井佑代表)。

開発はまだ道半ばの両社が特に力を注ぐのが安全性の確保だ。誰しもが初体験となるだけに、安全性が伴わなければ実用化は難しい。1000日間で飛行試験を繰り返し、100%安心できる機体を開発することが至上命題となる。

アンドロイド、人間とドラマ共演
「人とロボットの共生を具体的に見せ、どんな未来を作りたいかをイメージしてもらいたい」。万博のテーマ事業プロデューサーでロボット研究者の石黒浩・大阪大学教授は意気込む。

「いのちの未来」がテーマのパビリオンでは未来社会を想定したドラマにヒト型ロボットが登場。50年後の病院や学校、会社などのシーンで自律型ロボットや遠隔操作のアバター(分身)ロボットが人間の俳優と共演する。ロボットが医師や教師役で登場、実際にそんな役割を担う近未来を表現。仮想現実(VR)の会場も設け、アバターを通した体験もできる。

石黒氏がこだわるのは人間らしく会話し、ジェスチャーする表現力豊かなアンドロイドだ。自身にそっくりで2021年に開発された「ジェミノイド HI-6」は、動力強化で身体が震えにくく、動作がスムーズに。アンドロイド「ERICA(エリカ)」なども手がけ、「遠隔操作の通信速度を上げるなど、より人間らしく動くようにしたい」。

今年開発されたアンドロイド「オルタ4」は、ドバイ万博に出展した「オルタ3」の進化版。動作軸が43から53に増えたことで表情や腕、手など体の動きが豊かになった。

オルタは事前に人工知能(AI)で生成した歌詞を、オーケストラやピアノなどに合わせて即興で歌える。大阪・関西万博ではオペラにも出演、アンドロイド同士で会話したり歌ったりする予定。アンドロイド・オペラを手がける音楽家の渋谷慶一郎氏は「将来的には歌詞を即興で作れるようになると思う。3年後に何ができるか楽しみ」と期待を寄せる。

ロボットが会場メンテナンス?
万博の会場では、アニメに出てくるような人型重機(ロボット)が設備のメンテナンスにいそしむ姿が見られるかもしれない。

人間が操作し、高所作業などの重労働に当たる人型重機の実用化を目指すスタートアップ、人機一体(滋賀県草津市)の金岡博士社長は「会場で働く姿を見てもらえたら」と構想を温める。会場のシンボル、リングと呼ばれる環状の大屋根は高さが最大で約20メートルと見込まれる。「開発中の高所作業ロボをメンテナンスに使用できる」と語る。

万博への参加計画はまだ白紙だが、「テーマパークのキャストのように来場者に愛嬌(あいきょう)を振りまけば、ロボットと共存する未来を感じてもらえるはず」。ガンダムのような汎用機モデルの展示も模索する。

同社はJR西日本、日本信号と3社で鉄道の保線など高所作業の人型重機を開発中。現在の試作機はクレーンのアームに人の上半身型の機械が載ったものだ。4月から実証試験を始めた。

センサーを活用し、障害物を自動で回避する技術が今後の開発のポイント。ロボット自身が動きを制御できれば安心感が増し、作業を大幅にスピードアップできるという。

CO2からエネルギー生む「人工光合成」
植物の光合成のように水と二酸化炭素(CO2)から水素などのエネルギー源を生み出す、「人工光合成」を活用した未来の家が万博で披露されるかもしれない。大阪公立大学と建売住宅大手の飯田グループホールディングス(GHD)が共同で研究を進める。

植物は光合成で水とCO2から酸素と糖を生み出すが、人工光合成では太陽光を用いてCO2と水から有用な化学原料をつくる。公立大と同社の研究ではまず水素の貯蔵や運搬に役立つギ酸を生み出し、触媒を使って水素を発生させる。

万博ではパビリオンを共同で出展し、人工光合成でつくられた水素で生活に必要なエネルギーを生み出す「人工光合成ハウス」のお披露目を目指す。

公立大人工光合成研究センターと飯田GHDは宮古島(沖縄県)の拠点で実験準備を進める。万博でどこまでの成果を見せられるかは、実証試験の進捗次第だ。まずは装置が実寸大の規模で想定通りに稼働するか確かめる。

「同種の実験は過去に例がないのではないか」と同センター所長の天尾豊教授。同センターでは万博後を見据え、太陽光によってCO2から生分解性プラスチックをつくる研究も進める。燃料以外の有用な化合物を生成できれば、CO2をより長期間固定でき、大気中のCO2の削減につながる。 

「開幕1000日前」大阪・千日前で期待を聞いた
万博開幕まで1000日前となるのを前に、大阪・ミナミの「千日前」周辺を行き交う人々に話を聞いた。大阪・関西万博に期待することはなんですか――?

「心も体も元気になる万博に」。大阪府・市が出展するパビリオンでは、乗り物に乗っている間に来場者の生体情報を集めて健康状態を診断するアトラクションが登場する予定だ。大阪市浪速区に住む40代の女性は「自分の健康状態を分析してもらい、長寿の秘訣を知りたい」と話す。

「空飛ぶクルマ」の実用化を心待ちにする声もあった。岐阜県可児市から観光に訪れた20代女性は「大阪の街やベイエリアを上空から見てみたい」と目を輝かせた。

国内経済の活性化につなげてほしいとの期待も大きい。大阪府豊中市に住む40代の男性会社員は「日本の技術力の高さを世界にアピールする機会にしてほしい。中小企業にも注目が集まり、大阪の経済活性化につなげてほしい」と強調する。

1970年の大阪万博を10回ほど見に行ったという大阪市鶴見区の70代男性は「前回に負けないくらい華やかな万博が見たい。前回の万博では見逃した『月の石』に代わるような目玉があればいい」と話す。

(金岡弘記、船津龍樹、船橋美季、仲井成志、三村幸作、森山有紗、遠藤彰が担当しました)

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