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新年恒例の「
歌会始の儀」が14日午前、皇居・宮殿「松の間」で開かれた。今年の題は「本」。天皇、皇后両陛下と皇族方に加え、天皇陛下に招かれた召人(めしうど)や選者、応募2万861首(失格をのぞく)から選ばれた入選者10人の歌が披露された。
宮内庁によると、皇后さまは木陰で憩うように本によって安らぎを得てきたことを思い起こし、本に対する親しみと感謝の気持ちを詠んだ。皇太子妃雅子さまは英オックスフォード大学大学院時代の恩師から贈られた著書を読みながら、学生生活を懐かしく思い出した気持ちを歌にした。
秋篠宮ご夫妻の次女佳子さまは、ご夫妻が不在の夜、弟の悠仁さまに本を読み聞かせ、母の紀子さまのことを思い出した時のことを詠んだ。
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天皇、皇后両陛下や皇族方、選者、入選者らの歌は次の通り。
天皇陛下
夕やみのせまる田に入り稔りたる稲の根本に鎌をあてがふ
皇后さま
来(こ)し方(かた)に本とふ文(ふみ)の林ありてその下陰に幾度(いくど)いこひし
皇太子さま
山あひの紅葉深まる学び舎に本読み聞かす声はさやけし
皇太子妃雅子さま
恩師より贈られし本ひもとけば若き学びの日々のなつかし
秋篠宮さま
年(とし)久(ひさ)しく風月(ふげつ)の移ろひ見続けし一本の巨樹に思ひ巡らす
秋篠宮妃紀子さま
日系の若人かたりぬ日本へのあつき思ひと移民の暮らしを
秋篠宮家長女眞子さま
呼びかける声に気づかず一心に本を読みたる幼きわが日
秋篠宮家次女佳子さま
弟に本読み聞かせゐたる夜は旅する母を思ひてねむる
常陸宮妃華子さま
新しき本の頁(ページ)をめくりつついづく迄読まむと時は過ぎゆく
寛仁親王妃信子さま
松山に集ひし多くの若人の抱へる本は夢のあかしへ
寛仁親王長女彬子さま
高円宮妃久子さま
来客の知らせ来たりてゆつくりと読みさしの本に栞(しをり)入れたり
高円宮家長女承子さま
霧立ちて紅葉の燃ゆる大池に鳥の音響く日本(にほん)の秋は
◆召人
春日真木子さん
緑陰に本を繰りつつわが呼吸(いき)と幸(さき)くあひあふ万の言の葉
◆選者
篠弘さん
送られし古本市のカタログに一冊を選(よ)るが慣ひとなりぬ
三枝昂之さん
音読の声が生まれる一限目明日(あす)へ遠くへ本がいざなふ
本棚の一段分にをさまりし一生(ひとよ)の量(かさ)をかなしみにけり
今野寿美さん
秋の気の音なく満ちて指先に起こしては繰る本こそが本
内藤明さん
開かれて卓上にある一冊の本を囲みて夕餉(ゆふげ)のごとし
◆入選者(年齢順)
若き日に和本漁りぬ京の町目方で買ひし春の店先
おさがりの本を持つ子はもたぬ子に見せて戦後の授業はじまる
竹垣の露地に仕立てた数本の太藺(ふとゐ)ゆらして風わたりけり
「あったよねこの本うちに」流された家の子が言ふ移動図書館
本棚に百科事典の揃ひし日に父の戦後は不意に終はりぬ
二人して荷解き終へた新居には同じ二冊が並ぶ本棚
雉さんのあたりで遠のく母の声いつも渡れぬ鬼のすむ島
暑い夏坂を下ればあの本のあの子みたいに君はゐるのか
この本に全てがつまつてるわけぢやないだから私が続きを生きる
◇
宮内庁は来年の
歌会始の題を「人」とする募集要領を14日付で発表した。「人」の文字が詠み込まれていればよく、「人材」「若人」のような熟語にしてもいいという。
応募は一人一首で、未発表のものに限る。書式は半紙を横長に使い、右半分に題と短歌、左半分に郵便番号・住所・電話番号・氏名(本名、ふりがなつき)・生年月日・性別・職業を毛筆で縦書きする。病気や障害で自筆できない場合は、別紙に代筆の理由と代筆者の住所・氏名を書き添えるか、パソコンなどで印字して別紙に理由を書き添える。
視覚障害者は点字も可。
締め切りは9月30日(当日消印有効)。あて先は「〒100・8111
宮内庁」とし、封筒に「詠進歌」と書き添える。詳細は
宮内庁ホームページに掲載している。