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2015年7月16日木曜日

帝王学@システム


アラビアンナイト
~ペルシャ王と海の王女

作者 不詳
訳 青柳洋介

 昔、ペルシャに王がいました。御代の初めに多くの輝かしい勝利をおさめました。その後は、平安を謳歌したので、もっとも幸福な王と呼ばれました。王の唯一の気がかりは世継ぎがいないことでした。都では、王室の慣例に従って、廷臣たちを集めて、催しを開きました。大臣と名高い人たちが集まりました。その中に、はるか遠い国から来た商人がいました。商人は、とても大事な件があると、王への謁見を懇願しました。王はただちに商人の謁見に応じました。催しが終わると、廷臣たちは退きました。王はどんな用件を持ってきたのかと商人に尋ねました。

 「陛下、ご覧ください。私は美しく魅力的な奴隷を連れて参りました。この世の隅から隅まで探しても、見つからないほどです。この奴隷をご覧になれば、きっと妻にしたいとお思いになるでしょう」

と商人は答えました。

 王の命令に従って、この美しい奴隷はただちに召し入れられました。王は、奴隷を見ると、その美しさと気高さに圧倒されました。そして、恋の虜になり、すぐに結婚すると決めました。そして、結婚しました。

 王は自分の部屋の隣にその美しい奴隷を住まわせました。そして、召使いたちに命じて、もっとも高価な服を着せ、もっとも立派な真珠の首飾り、もっとも美しいダイヤモンド、その他の宝石など、奴隷が望むものを選ばせました。
 ペルシャ王の都は島の中にありました。荘厳な宮殿は海岸に建っていました。王の部屋の窓は海に面していました。そばにある美しい奴隷の窓からも同じ眺めでした。壁の下の方が波打ち際だったので、一層心地よかったようです。三日目が経って、素晴らしい装束に身を包んだ美しい奴隷は窓のそばのソファにひとりで座っていました。王が訪れると知らせがありました。王が入ってきて、足音がしたので、美しい奴隷は振り返って見ました。奴隷はそれが王であると分かりました。しかし、奴隷は少しも驚かずに立ち上がってあいさつしました。でも、すぐに窓の方を向いて王に背を向けました。まるで、王が大事な人物でないかのようでした。
 奴隷がとても麗しくて無心だったので、王はとても驚きました。奴隷のこのような態度は、教育やしつけを受けていないからだと王は思いました。王は窓のそばにいる奴隷のところへ行きました。奴隷の態度は冷淡で無関心でしたが、王が望むように接吻と抱擁を受け入れました。だが、奴隷は一言の返事もしませんでした。王は言いました。

  「いとしい人よ、あなたは返事もしなければ、聞いているそぶりも見せない。どうして、あなたは頑なに沈黙を守るのだ。私は滅入る。あなたは喪に付しているのか? あなたの国で友や親類を亡くしたのか? 悲しいかな! ペルシャ王はあなたを愛して敬っている。慰めることもできるし、あらゆる償いもできる」

 だが、美しい奴隷は沈黙を守り続けて、目を足元に落としまま口を開きませんでした。完全な沈黙の中で、ふたりは食事を共にしました。王は美しい奴隷に侍従を付けました。そして、奴隷が口を開いたか侍従に尋ねました。侍従のひとりが答えました。

  「陛下、陛下とご同様に、私たちはお妃さまが口をお開きになったのを見たこともなければ、お話になるのを聞いたこともございません。私たちはお妃さまのお世話をしております。くしをお入れして、お髪をご結いします。お召し物をお着せします。お妃さまのお部屋で侍っております。しかし、お妃さまはお口をお開きになりません。それが良い。これが好きだなどとは言われません。私たちは、お妃さま、何か欲しいものはございますか?何かお望みのことがございますか?と、たびたび、尋ねます。お妃さまは私たちにご命じになることもありません。お妃さまの口から一言も引き出すことはできませんでした。お妃さまの沈黙の理由が自負心なのか、悲しみなのか、愚鈍なのか、聾唖なのか、私たちには判じかねます。陛下にお伝えできるのはこれだけです」

 ペルシャ王は、この話を聞いて、さらに驚きました。美しい奴隷が話さない理由は悲しみからだと信じて、慰めたり楽しませようとしましたが無駄でした。丸一年、奴隷は一言もしゃべりませんでした。

 ある日、都にとてもめでたいことが起きました。沈黙の妃が王国の世継ぎとなる息子を生みました。今一度、王は妻から言葉を引き出そうと試みました。王は言いました。

 「妃よ、あなたが何を考えているか、私には推し量れない。あなたが私に一言しゃべってくれさえすれば、私の幸福と喜びは叶う。あなたが聾唖でないと何かが私に告げている。あなたが長い沈黙を破って私に一言話しかけるように懇願し呪いをかける。一言話しかけてくれれば、私はすぐに死んでもかまわない」

 美しい奴隷は、いつものように目を伏せて王の話に耳を傾けていました。奴隷は聾唖であり、一度も笑ったことがないと思えましたが、王のこの話の後に、少しだけ微笑みました。ペルシャ王はその微笑みに気づいて驚き、喜びの声を上げました。もはや、奴隷が話し始めるのに疑いはありません。王はたとえようがない熱意をもって注目し、その幸せの瞬間を待ちました。

 ついに、美しい奴隷は長い沈黙を破りました。奴隷はこのように話しました。

 「陛下、いったん沈黙を破ったなら、話したいことはたくさんあります。どこから始めてよいのか分かりません。まず第一に、陛下が私に与えてくれた親切と名誉に対して感謝します。神のご加護がありますように。敵の邪悪な企みから逃れられますように。私が話すのを聞いて、死ぬことがございませんように。そして、長生きなさいますように。もしも、息子を生む幸運に恵まれなかったなら、私はあなたを愛さなかったし、永遠の沈黙を続けたでしょう。私の決意をお許しください。でも、今は、愛すべき者として、あなたを愛しています」

 ペルシャ王は美しい奴隷が話すのを聞いて大喜びし、奴隷を優しく抱きました。王は言いました。

 「私の目に光が灯った。あなたが私に与えた以上の喜びを得ることは不可能だ」 

 ペルシャ王はもはや美しい奴隷に話しませんでした。奴隷にかまわずに、奴隷が気づくように喜びを伝えました。王の意図は直ちに奴隷に返されました。王の喜びは公にされました。王は大臣を呼びました。そして、大臣に直ちに命じました。質素を旨とする僧たちや病院や貧しい人々にに数千もの金を配って、神に感謝しました。王の意思に従って、大臣が指揮を執りました。

 命令を下した後、ペルシャ王は美しい奴隷に言いました。「妃よ。あなたを放っておいたことを許してくれ。私はあなたとの話が楽しみだ。いくつか知りたいことがある。いとしい人よ。丸一年も頑なに沈黙を続けた理由を教えてくれ。私を見て、私が話すのを聞いて、毎日いっしょに食事をしたにもかかわらず」

 ペルシャ王の疑問を晴らすために、奴隷は答えました。

 「考えてください。私が奴隷であろうがなかろうが、私の国から遠く離れて、再び国を見る望みもない。母や兄や友や知人と離れ離れになって悲しみで心が張り裂けていました。これが私が沈黙を続けた理由です。陛下、不思議ですか? ご不快ですか? 祖国を愛すること、親を愛することは当然です。自由を失うことは常識があるものにとって、自由の価値を知るものにとっては耐え難いことです」

 ペルシャ王は答えました。

 「妃よ、あなたが言うことは納得する。だが、奴隷の運命である美しい人が王の妃となる幸運に恵まれて喜ぶべきだというのが私の考えだった」

 美しい奴隷は答えました。

 「陛下、たとえ、奴隷であろうが、その奴隷の意思を支配できる王などいません。この奴隷が、奴隷を買った王に劣らない時には、陛下が憐れみや悲しみを抱いても、その空しい試みには絶望の怒りが向けられます」

 ペルシャ王は大いに驚いて言いました。

 「妃よ。あなたは王家の血筋なのか? お願いだから、すべての秘密を明かしてくれ。もはや、待ちきれない。両親、兄弟、姉妹、親類について教えてくれ。とくに、あなたの名前を教えてくれ」

 美しい奴隷は答えました。

 「陛下、私の名前はグルネアです。海の薔薇です。私の父はすでに亡くなっていますが、最も有能な海の王のひとりでした。父が死んだとき、サレハという私の兄に王国を譲りました。妃の母は、別の強力な海の国王の娘でした。私たちは国中で平和と静けさを楽しんでいました。私たちの幸せを妬んだ隣国の王子が強力な軍隊を率いて侵攻してきて、私たちの都も征服しました。私たちを見捨てなかった数名の信頼できる臣下と共に、追手の届かない場所へ逃れるしかありませんでした。
 隠れ家で、私の兄は不正な侵略者を私たちの領土から追い払うためにらゆる策をもくろみました。ある日、「妹よ」と兄が言いました。「王国を復活させる試みは失敗するかもしれない。私の恥よりも、あなたの身に起こることの方が気がかりだ。あらゆる不測の事態からあなたを守るために、あなたに結婚をお勧める。だが、今の私たちの不幸な状況では、海の王子の一人たりともあなたに会わせることができない。あなたが陸の王子と結婚しても良いと考えるなら、私は全力を傾ける。どんなに力を持っていようが、あなたと王冠を共にすることを誇りに思わない王子はいない」
 兄の話に、私は激情して、「兄上」と言いました。「あなたも私も、海の王と女王の子孫です。決して陸の王や女王の混血ではありません。私たちの先祖と同様に、私も身を落として結婚したくありません。私たちは身を落としていますが、私の決心は変わりません。あなたのもくろみを断念するなら、私はあなたの提案に従うよりもむしろ、あなたとともに身を落とす覚悟です」
 兄は、結婚に熱心で、私にとってどんなに不都合だろうが、海の王に劣ることがない陸の王がいると私が信じるように熱意を傾けました。それは、私をさらに激情させました。そして、兄に極まった苦言を呈しました。兄は私に不満を抱かせました。そして、私はいらだった気分で、海の底から月へ飛び移りました。
 私を月に行かせた激しい不満にもかかわらず、私は隠遁を楽しんでいました。私は用心していました。だが、召使いを連れた豪傑が寝ている私を起こして、私を自分の家へ連れ去って、私に結婚を迫りました。紳士的な手段では私が受け入れなかったので、男は暴力を使おうとしました。だが、私はすぐに男の傲慢を後悔させました。そして、男は私を売ることに決めました。売った相手こそ、私をここまで連れてきた商人です。そして、商人は私を陛下に売りました。この商人はとても分別があり、礼儀正しく人情深い男でした。長い旅の間、私は不満に思ったことは一度もありませんでした」

 グルネア王妃は続けました。

 「陛下につきましては、あなたが私に敬意を示さなかったら、あなたが私に疑いのない愛情を示さなかったなら、私はあなたのもとにいなかったと断言します。私はこの窓から海へ身を投じたでしょう。そして、母や兄や親類を探しに行ったでしょう。だから、あなたが私を奴隷でなく、あなたの王国に見合う王妃とみなすことを望みます」

 グルネア王妃がこのようにペルシャ王に告白したので、王は叫びました。

「私の愛しい王妃よ、なんと不思議なことか! あなたが私に話した不思議で聞いたこともないようなことに山ほどの質問がある。お願いだから、私が知らない海の王国とその人々についてっと話しておくれ。あなたが話したことは物語でなく、真実だと確信している。私はあなたをとても信頼している。そして、私の妻だとみなしている。あなたは陸上でもっとも誇らしい栄誉ある妻だ。だが、ひとつだけ私を困惑させることがある。お願いだから、説明しておくれ。あなたが水の中で溺れずに生きることができる訳を理解できない。私たちの中にも水の中に潜ることができるものもいる。彼らも、時間が経てば、死んでしまって、浮かび上がってこなかった」

 グルネア王妃は答えました。

 「陛下、喜んで陛下の疑問に答えます。あなた方が陸上で歩くのと同じように、私たちは海の底を歩くことができます。あなた方が空気中で息をするのと同じように、私たちは水中で息ができます。息が詰まることなく、命を保つことができます。さらに、驚くことに、私たちの衣服は濡れません。陸上に上がっても、乾かす必要がありません。私たちの言葉は、ダビデ王の息子である偉大なる予言者ソロモン王の封印に記されたものと同じです。
 さらに、話さなければなりません。海の中で見るのに、水は少しの妨げにもなりません。私たちは、何の不自由なく海の中で目を開けられます。私たちには鋭敏な視力があるので、深い海の中でも、陸上と同じようにどんなものでもはっきりと見分けられます。海にも昼も夜もあります。月明かりもあります。惑星や星座も見えます。私は海の王国についてすでに話しました。でも、海は陸よりも広いので、より多くの王国があります。王国は地域に分かれていて、それぞれの地域にはいくつかの大きな都市があり、人々もたくさん住んでいます。つまり、陸と同じように、海にも、異なった様式や慣習の国がたくさんあります。
 王宮は豪華で荘厳です。いろとりどりの大理石でできたものもあれば、水晶でできたものもあります。これらは海に豊富にあります。真珠、珊瑚、さらに価値が高い金、銀、宝石などが陸よりも豊富にあります。真珠については言うまでもありません。陸でもっとも大きな真珠でさえ、私たちには価値が無いでしょう。もっとも身分が低い者でも、真珠を身に着けていません。私たちはまばたきさえすれば、どこへでも行けるので、乗り物や馬に乗ることはありません。王は厩舎と馬を持っていますが、祝宴や祝日以外には滅多には使いません。馬を調教して、乗馬を楽しんだり、レースで技を披露する王もいれば、たくさんのきらきら輝く貝殻で飾られた真珠の馬車に馬を繋ぐ王もいます。この馬車には屋根がなくて、真ん中に玉座があり、王が座ります。そして、王は自分の姿を人々に見せます。馬は良く調教されているので、御者もいません。海の国には他にも興味深いことが山ほどあります。陛下にとってとても面白いと思いますが、今は話しません。暇があるときに、その次第を話します。私は母と従妹を呼びたいと思っています。それに、兄とも和解したいと望んでいます。みなと再会し話をして、私が偉大なペルシャ王の妻であることが分かれば、みなは喜ぶでしょう。陛下、私がみなを呼ぶことをお許しください。みなは必ず陛下に尊敬の念を向けます。陛下はみなと会えば必ずやとてもお喜びになるでしょう」

 ペルシャ王は答えました。

 「妃よ、あなたは妻です。やりたいようにすれば良い。敬意を持ってみなさんを受け入れようと思う。だが、あなたがみなさんにどのようにして知らせるのかを知りたい。みなさんの到着に合わせて、歓待の準備を命ずる。そして、私はみなさんとじきじきにお会いする」

 グルネア王妃は答えました。

 「陛下、歓待の儀式は必要ありません。みなはすぐにここへ来ます。陛下、その格子戸から、みなの到着の様子をご覧になれるでしょう」

 グルネア王妃は小さな灯のともった火鉢を持ってくるように侍従に命じました。王妃は退いて戸を閉めました。箱からアロエを一片取り出して、火鉢の中へ入れました。煙が立ち上るとすぐに、王妃はペルシャ王が知らない呪文を唱えました。ペルシャ王は床の間から注意深く見ていました。呪文が終わるや否や、海が騒がしくなり始めました。海が開いて、そこから、緑色の髭をたくわえた背が高い立派な若い男が現れました。彼の少し後ろに、年輩だが神々しい雰囲気の婦人が現れました。グルネア王妃に劣らず美しい若い婦人を五人従えていました。
 グルネア王妃はすぐに窓のところへ行きました。そして、兄、母、従妹たちを見ました。みなもまたグルネア王妃を見ました。一行は波の上を進んできました。みなは水際まで来ると、ひとりずつ、窓から素早く入ってきました。グルネア王妃は下がってみなを招き入れました。そして、目に涙を浮かべて、兄のサレハ王、母、従妹たちを優しく抱きました。

 グルネア王妃は最上の敬意を持ってみなを受け入れて、ソファーに座らせました。母君が言いました。

 「娘よ、長く不在だったが、再び会えてとても嬉しい。兄も従妹も同じ気持ちだ。あなたが誰にも知らせずに私たちの下を去ったので、この上なく心配だった。私たちがどれだけの涙を流したか言いようがない。あなたがそのような気持ちになった理由は分からないが、私たちは、あなたと兄との間で交わされた話を聞いた。兄があなたにした進言はあの時はあなたが落ち着くにはとても良い方法に思えた。私たちの立場にとってもとても良かった。たとえ兄の進言を受け入れなくても、それほど驚くべきではなかったし、私と話すべきだった。あなたは別の観点で行動をとった。だが、これ以上は言うまい。この件は忘れるべきだ。あなたが去ってから、起こったこと、今の状況、そしてあなたが満足しているかを話してくれ」

 グルネア王妃はただちに母親の足元に跪きました。そして、立ち上がって母の手に口づけをしました。そして、王妃は言いました。

 「認めます。私の過ちでした。お許しお願いします」

 そして、海の国を捨てて、起こったことのすべてを話した。ペルシャ王に売られて、今は王の宮殿にいると告げると、兄上が言いました。

 「妹よ、あなたは今は自由になる力がある。私の王国に戻っておいで。私は略奪者から王国を取り戻した」

 床の間に身を隠していたペルシャ王はその言葉を聞いて、とても驚いて、つぶやきました。

 「ああ! 私は破滅する。私の王妃、私のグルネアが兄上の言葉を聞き入れて、私のもとを去ったなら、私は死ぬだろう」

 だが、グルネア王妃が王の恐れをただちに打ち消しました。王妃は笑いながら言いました。

 「兄上、世界でもっとも権力があり高名な王との約束を破るあなたの言葉は腹立たしく思えます。奴隷と主人の間の約束ではありません。王にたくさんの金を返すのは簡単でしょう。でも、私は妻と夫の約束のことを言っているのです。私は何の不平もない妻です。王は信心深く、賢く、思慮深い。私は王の妻です。そして、王は国を分かつペルシャ王妃と宣告しました。さらに、私には子供がいます。小さな王子ベーダーです。母、あなた、そして、従妹たちが私の決心に反対しないことを望みます。海の王と陸の王の対等な同盟です。深い海の底からここまで来られたご苦労を詫びます。長い別離の後に、あなた方と会えて話すのは喜びです」

 サレハ王は言いました。

 「妹よ、私が私の王国に戻っておいでと言ったのは、私たちがあなたを愛しているからです。そして、あなたを尊敬しているからです。私にとって、あなたの幸せほど嬉しいものはない」

 母は息子が言うことに同意しました。そして、グルネア王妃に言いました。

 「あなたが幸せだと聞いてとても嬉しい。兄があなたに言ったことに付け加えることはない。あなたをこれほどまでに愛し、これほどのことをしてくれたペルシャ王に、あなたが感謝しないなら、私はあなたをとがめます」

 床の間に身を隠しているペルシャ王はこの話を聞いて、王妃をますます愛しいと思いました。そして、できうる限りの感謝を示そうと決意しました。

 すぐにグルネア王妃は手を叩きました。侍従が部屋に入ってきました。王妃は食事を運ぶように侍従に命じました。食事の準備ができるとすぐに、王妃は母、兄、従妹を招き入れて、腰かけるように言いました。見たこともない偉大な王の宮廷に許しもなく入って、王がいないまま食事をすることは大いに無礼であると、みなは考えました。なので、みなの顔は赤くなり、目は炎のように赤くなって、口と鼻からは炎の息が出ました。

 この予期せぬ光景の理由を知らないペルシャ王は仰天しました。みなの意図を理解したグルネア王妃は席を立ち、すぐに戻ると言いました。王妃は床の間に入り、王のペルシャ王の驚きを鎮めました。王妃は言いました。

 「陛下、誠実な友情を示させてください。母、兄はあなたに敬意を表します。みなはあなたにとても会いたがっています。みずから敬意を表したいと思っています。私は、みなを陛下に紹介する前に、食事をして、みなに話をしようと思っていました。でも、みなは陛下に敬意を表さないのはとても無礼だと思いました。陛下が中に入られることを望みます。そして、みなに敬意を表してください」

 ペルシャ王は言いました。

 「妃よ、あなたの縁者に喜んで敬意を表します。だが、みなの口と鼻から出ている炎が怖い」

 王妃は笑いながら答えました。

 「陛下、炎を恐れる必要はありません。炎はみなの不本意の印です。あなたの宮廷で、あなたに敬意を表することなく食事をすることはできません」

 ペルシャ王はグルネア王妃の言葉を聞いて、立ち上がり、王妃と一緒に部屋に入りました。王妃は母、兄、従妹に王を紹介しました。みなはただちに王の足元に跪いて、床に顔を付けました。ペルシャ王は駆け寄り、立ち上がらせて、ひとりひとりを抱擁しました。

 みなが席に着くと、サレハ王がペルシャ王に言いました。

 「陛下、私の妹が偉大な王の庇護の下で幸せなことを思うと、喜びを表す言葉も見つかりません。あなたが妹に授けた地位は妹にふさわしいと私たちは断言できます。そして、私たちは妹を愛しているので、妹と離れようなどとは思っていませんでした。妹が結婚適齢期になる前に、勢力が強い海の王子がたびたび求婚してきました。陛下、妹とあなたは天命です。天の恩恵に感謝の表しようもありません。陛下と妹が末永く幸せであることを願います。陛下のご繁栄を願います」

 ペルシャ王は答えました。

 「御意。母君、そして、あなた、親戚の方々に十分な謝意を表すことができません。あなた方が私と同盟を組むことにご同意された寛大さに感謝の言葉もありません。とても喜ばしいことです」

 そして、ペルシャ王は一行を昼食に招待しました。ペルシャ王と王妃はみなといっしょにテーブルにつきました。昼食の後、ペルシャ王は夜遅くまで、みなと話しました。時間が来たので、一行のために準備した部屋の前で、みなを待ちました。

 翌日、ペルシャ王、グルネア王妃、母君、サレハ王、親類の姫君たちが部屋で談話していると、乳母がベーダー王子を抱いて部屋に入ってきました。サレハ王は王子を見るや、駆け寄って王子を抱きました。抱いた王子に話しかけ、この上もなく優しく接吻して愛撫しました。部屋の中をぐるぐる回って、王子をほうり上げながら踊りました。そして、突然、喜びを見せながら、開いている窓から、飛び出して、王子と一緒に海に飛び込みました。
 海に飛び込むなど、夢にも思っていなかったペルシャ王は大声で叫びました。もう王子に会えない。王子は溺れてしまうと思いました。ペルシャ王は嘆き悲しんで今にも死にそうでした。

 落ち着いた表情でグルネア王妃は言いました。

「陛下、何も恐れることはありません。あなたと私の王子です。私もあなたと同じように王子を愛しています。私が驚いていないことがお分かりになりますよね。驚く必要はないのです。王子に危険はありません。まもなく、サレハ王と王子は現れるでしょう。サレハ王が王子を背中にしょって。というのは、王子も私やサレハ王と同じように、海の中でも大丈夫な能力を持っています」

 母君や類の姫君たちも同じことを言いました。だが、みながそう言っても、ペルシャ王の驚きを鎮める効果はありませんでした。ペルシャ王はベーダー王子が目の前に現れるまでは動揺が消えそうもありませんでした。

 そして、海がざわつき始めました。サレハ王は王子を腕に抱いて現れました。王子を空中に高く掲げて、出ていった同じ窓から入ってきました。ペルシャ王はベーダー王子を見てとても喜びました。そして、王子が前と変わらないので驚きました。

 サレハ王は言いました。

 「私が甥の王子とともに海に飛び込んだ時、陛下はとても驚かれました」

 ペルシャ王は答えました。

 「ああ、王子よ! 気持ちを言い表すことはできない。海へ飛び込んだ時、もはや王子を失ったと思った。王子を再び連れ戻って、私は命を取り戻した」

 サレハ王は答えました。

 「そう思いました。危険だと思う必要は少しもなかったのですが。王子と共に海に飛び込む前に、王子にある呪いをかけていました。ダビデ王の息子である偉大なるソロモン王の封印に刻まれたものです。海の王国で生まれた子供たちにも同じ呪いをかけます。呪いのおかげで、陸に住む人と同じように海の中で生きることができます。陛下がご覧になったように、ベーダー王子が得た能力をご理解いただけると思います。王子は生きている限り、望む限り、海に飛び込んで、海の王国を自由に動くことができるでしょう」

 このようにサレハ王は言って、ベーダー王子を乳母の腕に返しました。そして、海の王宮から持ってきた箱を開きました。箱の中には、鳩の大きさもある300個のダイアモンド、とてつもない大きさの300個のルビー、15センチの長さの300個のエメラルド、3メーターもある30個の真珠のネックレスが入っていました。この箱をペルシャ王に献上して、サレハ王は言いました。

 「陛下、私が妹に呼び出されたとき、妹が陸のどんな所にいるのか、偉大な王と結婚しているのかを知りませんでした。そのため、私は何も持ってきませんでした。陛下の御恩にお礼を述べる言葉も見つかりません。陛下が妹になされたことに対する御恩を示すためのささやかな感謝の印です」

 箱の中のたくさんの宝石を見てペルシャ王がどれほど驚いたか言い表せません。ペルシャ王は叫びました。

 「何と!」

 そして、グルネア王妃の方を振り返りながら言いました。

 「あなたはこれだけの宝石をささやかな感謝の印だというのか? あなたも母君も私に何も求めてはいない。あなたの兄上は私をとても驚かせた。あなたの兄上がご立腹ならないなら、贈り物をお断りしたいものだが。贈り物をお断りするように兄上に許しを乞うてくれぬか?」

 サレハ王が答えました。

 「陛下、陛下がこの贈り物をたいそうなものだとお思いになることには驚きません。陸ではこれだけの宝石を見ることに慣れていないと思います。この宝石は私の王国のものです。陸のどんな王よりも私には力があります。このようなささやかな贈り物をするのは無礼だと思いもします。その点をお考えになり、真の友情のために、贈り物をお断りにならぬようお願い申します」

 サレハ王の言葉を聞いてペルシャ王は贈り物を受け取りました。そして、サレハ王と母君にたくさんのお礼を述べました。

 数日後、サレハ王は、母君や従妹たちとペルシャ王の宮廷で過ごした日々はこの上もない喜びだとペルシャ王に述べました。しかし、自分たちの王国を長い間留守にししましたが、王国には私たちが必要です。ペルシャ王とグルネア王妃のもとを去るのはつらいですが、おいとましなければなりませんと述べました。ペルシャ王はとても残念だと述べました。そして、言いました。

 「くれぐれも、グルネア王妃をお忘れにならぬように。ときどき会いに来てください。私もまたみなさんとお会いしたい」

 別れにはたくさんの涙が流されました。まず、サレハ王が別れを告げました。母君と従妹たちはグルネア王妃と抱き合っていました。グルネア王妃は別れがとても辛いようでした。一行が去った後、すぐにペルシャ王はグルネア王妃に言いました。

 「妻よ。あまりの不思議さに目を疑った。だが、あなたのすばらしい家族と宮廷でごいっしょできたのは光栄だ。私は生きている限り忘れないし、神があなたを別の王でなく私のもとへ送ってくれたことに感謝し続ける」
 ベーダー王子とギャウハラ姫

 ペルシャ王と王妃の庇護の下、ベーダー王子は成長して、教育も受けました。王子の好ましい様子と物言いは、年を経るにつれ、王と王妃を大いに喜ばせました。サレハ王や母君や親類の姫君たちがときどき王子に会いに来ました。王子は読み書きも上達して、地位にふさわしい教養も身に付けました。

 15歳になるころには、王子はとても賢く思慮深くなっていました。ペルシャ王は君主に必要なこれらの長所を生まれたころから見出していました。だが、日々高齢の欠点が見え始めていたので、死ぬ前に王子に王座を渡すことになると思っていました。ペルシャ王は引退を決意しました。議会の承認を得るのに大きな障碍はありませんでした。この話を聞いた人々はとても喜びました。人々はベーダー王子が国を治めるに値すると思っていました。王子は、王子に近づく人たちはだれにでも好意をもって接しました。好意をもって人々に返事しました。公正でない人でさえも拒否しませんでした。
 王位継承の儀式の日、普段よりも多い人々の中で、ペルシャ王は玉座を降りて、王冠を取り、ベーダー王子の頭に乗せました。そして、王子を玉座に座らせて、王位を譲った印として、王子の手に接吻しました。その後、王は玉座の下にいる大臣や王族の中に入っていきました。
 大臣、王族、主だった廷臣たちは、新しい王の足元に行き、それぞれの立場で、王への忠誠を誓いました。そして、首相がさまざまな重要な案件を報告しました。若い王は議会のみなが驚くような思慮深さと賢明さで、その案件に判断を下しました。それから、素晴らしい眼識で、内閣の人事を行いました。そして、先王を伴って、議会を出て、母君のグルネア皇太后に会いに行きました。皇太后は王冠を見て、若い王に駆け寄り、王を優しく抱いて、末永い良き治世を願いますと言いました。

 王位についた最初の年、ベーダー王は慎重に王の役割を果たしました。身の回りのことを知らせることに関心を払いました。そして、国民の幸福に貢献することに全力を尽くしました。次の年は、先王の指揮の下、議会を離れて、狩りを楽しむという口実の下に、都を出ました。ベーダー王の真意は国の隅々まで訪れることでした。そして、あらゆる不正を正し、良い沙汰を出し、良くない諸侯を排除し、辺境の地を訪れて、安全と平安をもたらすことでした。

 ベーダー王は計画を遂行するのに丸1年を要しました。王が戻ってすぐに、父である先王は回復の見込みがない重病に倒れました。先王は静かに最後の時を待ちました。先王の唯一の気がかりはベーダー王に忠実な大臣や官僚を推薦することでした。みなが先王の意思を受け入れました。そして、ついに、先王は死にました。ベーダー王とグルネア皇太后は深い悲しみに包まれました。そして、先王にふさわしい立派な墓へ遺体を安置しました。
 葬儀は終わりました。ベーダー王はペルシャの伝統に従って、1か月喪に服しました。その間、誰にも会いませんでした。父の死を悼み、悲しみに身をゆだねました。その間に、サレハ王と親類の姫君たちが王宮に到着しました。そして、グルネア皇太后と共に苦痛を分かちあいました。そして、慰めあいました。

 1か月が経つと、王は首相や大臣と会いました。彼らは、悲しみを忘れて、依然と同じように仕事をするように、王に求めました。王は彼らの求めに抵抗しました。首相は言わざるを得ませんでした。

 「陛下。私たちの涙も、陛下の涙も、先王を生き返らせることはできません。私たちは、日々、先王に哀悼の意を表しました。先王はすべての廷臣の法でした。そして、廷臣は死に対して哀悼の意を示しました。だが、先王はもはや亡くなったと言うしかありません。私たちは、陛下の中に先王を見ることができます。先王は間違いなく亡くなりましたが、陛下の中に先王は蘇ります。陛下、それが間違いないことを示してください」

 ベーダー王はこのような強い嘆願にもはや抵抗できませんでした。王は悲しみを胸にしまいました。王は王室の慣例を回復して、先王が亡くなる前と同じように、王国の仕事をし始めました。王はみなの賛同を得て仕事を行いました。王は先王の法をきちんと守ったので、廷臣たちは君主が変わったと感じました。

 サレハ王は母君と親類の姫君たちと共に海の王国へ戻っていましたが、ベーダー王が仕事をし始めてまもなく、ひとりでやってきました。ベーダー王とグルネア皇太后はサレハ王に会って大喜びしました。

 ある晩、三人はテーブルから立ち上がって、いろいろなことを話しました。サレハ王は甥のペルシャ王を賞賛し始めました。甥がとても思慮深く国を治めているのを見てとても嬉しいと、妹の皇太后に言いました。その治世の評判は高く、近隣の諸侯だけでなく、遠方の諸侯にも評判が良い。ベーダー王は褒めらることに耐えられなくなり、伯父のサレハ王を礼儀正しく遮りました。そして、サレハ王の後ろにあるクッションに頭を乗せて、横になって眠りました。

サレハ王は言いました。

 「妹よ、ベーダー王の結婚について考えていないのではないかと思っている。記憶に違いが無ければ、王は20歳だ。この歳にもなれば、妻がいないと何かと不便でしょう。あなたが考えていなくても、私は王の結婚について考えている。王にふさわしい海の国の姫と結婚させたいと思っている」

 グルネア皇太后は答えました。

 「兄上、今の今まで、王の結婚については考えておりませんでした。あなたのお考えをお聞きしてうれしく存じます。姫君のひとりをお勧めください。ベーダー王が愛するような美しくて素晴らしい姫を指名してください」

 サレハ王は答えました。

 「ベーダー王にふさわしい姫君を知っている。だが、姫君だけでなく父親にも難しい問題がある。その姫君はギャウハラ姫です。サマンダル王の娘です」

 グルネア皇太后は答えました。

 「何ですって? ギャウハラ姫はまだ結婚していないんですか? 海の王国を去る前に、ギャウハラ姫に会ったことを覚えています。その時、姫は18か月の赤子でした。姫はこの上もなく美しく、この世の奇跡と言えるほどでした。姫はベーダー王より数歳年上です。でも、この話を進めるにあたって、歳は問題ではありません。難しい問題とは何ですか? その問題を乗り越えましょう」

 サレハ王は答えました。

 「妹よ、サマンダル王が耐え難いほど分別がないのが大きな問題です。王は他のすべての者を自分より劣っていると考えています。この縁組を進めるのは容易ではありません。私の方からサマンダル王に会いに行きます。そして、姫君を嫁に乞います。サマンダル王が拒否した場合、他をあたります。私たちの評判がもっと良い所です。この場合に備えて、ペルシャ王が私たちのもくろみに気づかないようにした方が良いでしょう。私たちがサマンダル王の同意を得るまでに、ペルシャ王がギャウハラ姫に恋をしないように」

 二人はこの点についてもう少し話をしました。そして、サレハ王が海の王国へただちに戻って、ペルシャ王の嫁に、サマンダル王の娘、ギャウハラ姫を乞うことになりました。

 ベーダー王は二人の話を聞いていました。ギャウハラ姫に会う前に、ベーダー王はギャウハラ姫に恋をしました。王は一晩中起きて考えていました。翌日、サレハ王はグルネア皇太后とペルシャ王の元を去ると言いました。サレハ王がただちに去るのは自分のの幸せのためだと知っていましたが、サレハ王が去ると聞いて、ペルシャ王は顔色を変えましたた。ペルシャ王はサレハ王が姫を連れてくるのを望みましたが、もう一日サレハ王と共にしたい、そして、狩りをしたいと願い出ました。狩りの時、ベーダー王はサレハ王と二人きりになる機会がたくさんありましたが、自分から口を開く勇気がありませんでした。狩りの最中に、サレハ王と離れて、従者も誰もいなくなりました。そして、小川のそばで、馬から降りて、馬を木につなぎました。土手には数本の木が生えていました。ちょうど良い木陰を見つけて、草の上に横になりました。そして、しばらくの間、黙って考えに耽りました。

  しばらくして、サレハ王はペルシャ王がいないのに気づいて、ペルシャ王の身に何かあったのではないかと心配になりました。そして、従者を残して、ペルシャ王を探しに行きました。やがて、少し離れたところにいるペルシャ王を見つけました。サレハ王は、前の日、ペルシャ王がいつものようには元気でないことに気づいていました。ペルシャ王に話しかけても、ペルシャ王は何も答えませんでした。サレハ王は、ペルシャ王が憂鬱そうに横になっているのを見て、ペルシャ王とグルネア王妃の間に何かあったのではないかと思いました。サレハ王は少し離れたところで馬から降りて、馬を木につなぎました。そして、ゆっくりとペルシャ王に近づいて行きました。ペルシャ王がつぶやくのが聞こえました。

 「サマンダル王の姫よ。あなたがどこにいるか分かりさえすれば、今すぐにでも、そこへ行って、あなたに私の気持ちを伝えたい」

 サレハ王は、ただちに、ペルシャ王に姿を見せて、言いました。

 「先日、私とグルネア皇太后がギャウハラ姫のことを話しているのをあなたは聴いていたようだ。あなたは眠っていると思っていた。あなたに知らせるつもりはなかった」

 ベーダー王は答えました。

 「伯父上、私は一言も漏らさず聴いていました。でも、私の心は強くはないので、あなたに打ち明けませんでした。お願いです。伯父上がサマンダル王の許しを得るまで、ギャウハラ姫の返事を待ちきれません」

 サレハ王はペルシャ王の言葉に困惑した。サレハ王はそれがいかに困難か言いました。ペルシャ王と共に行かねばならない。サレハ王が国を不在にすることは危険を伴うと言いました。サレハ王はペルシャ王に待つように言いました。だが、サレハ王の言葉にペルシャ王は満足しませんでした。

 ペルシャ王は言いました。

 「無慈悲な伯父上。あなたは私をそれほど愛してはいない。伯父上が私の願いをかなえる前に、私は死んでしまうでしょう」

 サレハ王は答えました。

 「私はどんなことでもする覚悟はある。だが、あなたを連れ立つことについては、あなたの母君に話すまではできない。母君が何と言われるか? もしも、母君が賛成するなら、私は何でもする覚悟がある。そして、あなたの願いを叶えるために、あなたと共にするでしょう」

 ペルシャ王はもどかしそうに答えました。

 「伯父上が私を愛しているなら、私の信頼を得るべく、伯父上は私を伴って、直ちに王国へ戻るべきです」

  サレハ王は甥の言い分を認めざるを得ませんでした。そして、ソロモン王の封印である不思議な名が刻んである指輪を外しました。それは彼らの徳に従って不思議をもたらすのです。

 サレハ王が言いました。

 「この指輪を受け取りなさい。そして、あなたの指にはめなさい。海の水も、その深みも恐れる必要はありません」

 ペルシャ王は指輪を受け取って、指にはめました。

 サレハ王が言いました。

 「私と同じようにしなさい」

 そして、二人は空中から海へ飛び込みました。

 まもなく、海の王はペルシャ王を伴って、宮殿に着きました。すぐに太皇太后の部屋へ行って、ペルシャ王を太皇太后と引き合わせました。ペルシャ王は太皇太后の手にキスをしました。太皇太后は大いに喜んで、ペルシャ王を抱擁しました。

 太皇太后が言いました。

 「ご機嫌はどうですかとは尋ねません。あなたを見れば、とても元気そうだから。あなたを見てとても嬉しいわ。私の娘、あなたの母君、グルネア皇太后の調子はどうですか?」

 母君の健康は万全ですとペルシャ王は言いました。太皇太后はペルシャ王を姫君たちの下へやりました。姫君たちと話しているペルシャ王を残して、太皇太后はサレハ王の下へ行きました。ペルシャ王はギャウハラ姫と恋に落ちましたとサレハ王は言いました。それで、ペルシャ王を連れてきました。彼を妨げることはできませんでした。


(続く)

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